33年
(C)箱舟の聖母社


(89)洗礼・・・キリシタン部落の誕生


 寺沢村から15人が松岡金山に着いて一泊した翌日、医者に変装したパードレ・アンゼリスと3人の同宿が、案内の増田銀山のほり子たちに連れられて松岡金山にやってきた。パードレ・アンゼリスはシチリア島生まれのイタリア人だ。笠をかぶって顔を隠している。松岡金山のキリシタンつち親の家へ向かっている。

 家のまわりには大勢のキリシタンや、洗礼を受けてキリシタンになりたい人が待っている。寺沢の15人がいる。院内からも来ている。やはり洗礼を授けてもらいたい人々を引き連れて、三太夫親分が来ている。

 パードレは笠をとる。ほりの深い、鼻の高い、ひげだらけの顔があらわれる。キリシタンたちは大感激のうちにひざまづき、頭をたれる。パードレは小さく十字をきり、祝福を何度も与えながら歩き続ける。多くの人が感涙にむせんでいる。

 寺沢からの15人の前をパードレが通ると、六左衛門がパードレに声をかける。

六左衛門
「パードレ・アンゼリス。同宿のルイスです。」

 パードレがびっくりして立ち止まり、六左衛門を注視する。両手を大きく広げて前にのばす。

アンゼリス
「オー。ルイス。」

 パードレがこう叫び、パードレと六左衛門は再会を喜びつつ、かたくハッグし合う。この光景に寺沢から来た人々は感激してしまい、マグダレナはなぜか泣けてしまう。

アンゼリス
「ルイスよ、こんなところで会えるとは・・。どうしているんだ、ルイス。」

 三人の同宿ともハッグをしてから六左衛門が答える。

六左衛門
「この近くの寺沢村に、今住んでいるんです。パードレ、今日は村人5人の洗礼と・・。」

 六左衛門はマグダレナの手を引っぱってパードレの目の前に立たせ、マグダレナの頭に片手でふれ、

六左衛門
「僕とこの人の結婚式を挙げてもらいに来ました。マグダレナと言います。」

マグダレナ
「ぱーどれ、おら、まぐだれなっていいます。おねげーします。」
(パードレ、私マグダレナです。お願いします。)

 パードレは大きくうなずき、いつくしむようにマグダレナを見つめ、それから引き寄せてハッグする。

アンゼリス
「マグダレナ、おめでとう。結婚式を喜んでやってあげますよ。夕方、涼しくなったらがいいでしょう。ルイスと打ち合わせをしますからね。」

 マグダレナは大喜びでハッグをといた。パードレを見つめ、大きくうなずく。

アンゼリス
「ルイスよ、何か食べてから洗礼式をします。そのあと夕方まで罪の告白を聞くから、マグダレナと一緒に罪を告白しに来なさい。最初に二人の罪の告白を聞いてあげます。それが終ったら仕度をしなさい。仕度ができたら、早速結婚式をあげてあげます。じゃあ、またあとで。」

 六左衛門とパードレが話している間に、押しかけてきた人みんなに、寺沢村の同宿、六左衛門とマグダレナという娘の結婚式を、夕方パードレがとりおこなうという情報が、次から次へと伝えられる。六左衛門はよく知られているので、そこらじゅうから(行こう、行こう、見に行こう)という声が沸き起こる。

 パードレと三人の同宿が食事を終わり、洗礼式の準備が始まった。林の親分がひょうたんと、かための盃のための盃をパードレに手渡しながら、説明をしている。パードレがびっくりしている。

アンゼリス
「・・では、この素晴らしい地下教会は、あなたが石見で始めたのですか。」

林の親分
「とんでもねー。夕方、パードレが結婚式をする時、証人として立ちあう高らい人の夫婦が始めたんです。今ここにはいねーけど、世界一進んでる高らいの精錬技術の先生で、秀吉が高らいを侵略した時、日本に連行されてきて、有馬でキリシタンになったシスト先生とその奥さんのカタリナが、石見の俺のところで始めたんです。21年かけて作ったもんです。」

アンゼリス
「高らいの夫婦が・・。有馬でキリシタンになって・・。21年かけて・・。有馬にはどのくらい、いたんでしょうね。」

林の親分
「2年ほどだって聞いてます。」

 パードレはうなづいてだまる。ちょっと何か考えて、

アンゼリス
「わかりました。ここでの洗礼はこれをつかってやります。終ったらちゃんと返しますからね。大切なものでしょう。」

 ここに3日間しか留まらないパードレは、洗礼式を最短のものにして行なう。第一日目の今日、洗礼を受けに来た人たちは、男も女も何十人もいる。

 迫害の時代なので、パードレは信仰を最後まで守り抜くよう熱烈に励まし、それから一人ひとりに男から洗礼を授けてゆく。5人が選んだ洗礼名は、源五郎はマテオ。源五郎の母はアンナ。彌三郎はルイス。四郎兵衛はパウロ。孫十郎はトマスだ。

 洗礼式が終わり、寺沢村の15人がまた一緒になった。これは寺沢村のキリシタン部落の誕生なのだ。11ヶ月前、シストが始めたキリシタン部落つくりの初穂が、こんなにも早く寺沢村に実った。

 大喜びの15人の中でも、シストと、そして一緒に歩き回っているカタリナと六左衛門の喜びは最も大きい。ゼロと1とはまったく違う。ちょうど寺沢金山のキリシタン共同体が、カタリナと林のおかみを軸に、愛し合い、助け合う天国のような共同体として存在をはじめたので、他の鉱山にもそれを見習って同じような共同体が、それから約2年の間にどんどん作られてきているのと同じで、見習うべきモデルがあれば、次々にそれを見習って自主的にキリシタン部落を、キリシタンの百姓たちは作っていけるのだ。




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2010年3月13日 UP
著者 ジャン・マリー神父・ソーンブッシュ・リトルヨハネ
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