33年
(C)箱舟の聖母社


祖国のために

いわみ銀山の外でのうれしい誤算というのは、シストのつくった高らい式の炉の大成功によってはじまった。精錬部門の人々は「すごい。」と言葉を失った。そして、すごい、すごい、といううわさは、鉱山中にたちまち広まった。
毛利氏の役人が、そのすごさに狂喜した。そして、シストを他の鉱山にも高らい式の炉をつくらせ指導させるために次から次へと毛利氏支配の鉱山に派けんすることにきめた。
もちろん大がかりな炉の建設には、長期の滞在が必要だ。そして、手伝いのための精錬部門の弟子たちを伴わなければならない。
シストは、派けんされるたびに、弟子たちの中に同宿や伝道士を混ぜて伴った。まるで、キリシタンの教理の集中講義に行くようなものだ。
日中は、炉をつくり、指導し夜は例のシスト塾だ。シストの大車輪の活躍が続けられ、高らい式の炉もキリシタンの教えも毛利氏支配の他鉱山にどんどん広まっていった。そして、そこでも大将として、指揮官として、日本国中の鉱山をネットワークする地下教会を完成させるための戦略を新しくキリシタンになったつち親や、やま師、ほり子たちにさづけていった。
シストの、最初の計画は、小規模で長い時間をようしての地下教会づくりであったが、まるで高らい式炉のように大規模高能率で地下教会づくりがすすんでいったのだ。しかも何の妨害もうけず、やりたいほうだいできた。

シストは若い。1594年24才で日本の鉱山での地下教会づくりをはじめた彼は25才、26才、と昼は精錬の、夜はキリシタンの教えの指導を続ける。
体力の限界をこえて働きつづける彼は意志の強固な力によって自分の体をささえているのだ。その彼の意志力をささえているのは、六左衛門がくるたびにもたらしてくれる祖国、高らいの情報だ。
六左衛門は、キリシタン武士たちからも、連行されてくる高らい人ほりょたちからも両方から情報を得てきて、シストの家でシストとカタリナに話してくれるのだ。シストとカタリナの頭と心にはいつも祖国が生きている。じゅうりんされている祖国とともに二人はいつも苦しんでいるのだ。六左衛門がもたらしてくれるのは、高らいの庶民や農民が、義兵となって秀吉の侵略軍に対して、抵抗しているありさまだ。

シスト 
「ああ、ぼくの祖国。ああ、ぼくの高らい。戦い続けているんだ。戦い続けてくれ。勝ってくれ。」

シストもカタリナも胸がしめつけられるように苦しくなる。毎回毎回、聞くたびにそうなる。そして、「ぼくも戦いつづけよう」と祖国の敵、神の国の敵、秀吉に対して祖国と共に、祖国の義兵とともに戦っている意識を強めて、体にむちうって明日からもますます働こうと決意を固める。










2008年5月26日 UP
著者 ジャン・マリー神父・ソーンブッシュ・リトルヨハネ
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