33年
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イエズスっていう親分

 翌日、六左衛門が、先生として教える2日目のシスト塾が終わり、昨日のように酒がでると、六左衛門は林の親分に鉱山の制度やつち親制度や他の鉱山とのつながりなどなど、たくさんの質問をしまくった。シストの言ったとおりだった。ということは、すなわち林一家に洗礼をさずけ協力してもらえば、時間さえかけなければ、日本中の鉱山をネットワークする地下教会が本当にできるということだ。

六左衛門 
「シスト、林の親分に昨日の話しをしてくれないか。」

シスト  
「よし。わかった。林の親分、ぼくの計画を聞いて欲しいんだけど。」

林の親分 
「何だい。何だい。遠慮なく話せよ。」

 シストは昨日のように、そして今晩は林の親分からさらに詳しくいろいろ確認できたので、もっと確信にみちて、しかも熱くなって自分の計画を全部話した。その話の熱烈さに林のおかみもカタリナも引き込まれ、酒をつぐのも、さかなをだすのも忘れてすわりこんで、いっしょに聞きどおしたほどだった。話しを聞き終わった林の親分が目に手をもっていく、なんと意外なことに林の親分が泣いた。なぜ、泣くのか、皆がわからず、しばらく全員沈黙してしまう。やっと林の親分が、口を開く。開口一番。

林の親分 
「ありがてえ。ありがたくって涙がでたのよ。おれの口にしねえ悲しみはよ、かわいいほり子達が、この世にも、あの世にも希望をもてねえまんまに死んでゆくってことよ。あいつら坑道に入りつづけりゃ、あんな若くてぴんぴんしているやつらでも、あと数年の命だぜ。数十年じゃねえ。数年だぜ。つち親になりゃー坑道に入らねーから、もっと長生きできる。結婚すれば自分の子どもを育てるってえこともできらあ。あいつら世間には戻れねえ。ほり子を続けりゃー数年でおだぶつだ。金もうけても残してやる子もいねえ。この世に何の希望も持てねーから、ばちあたりな生活をつづけて遊女と酒とばくちでみんなすっちまうし、極楽往生の望みもねー。シスト先生の言うとおりやりゃー、神様にご奉仕できるってことだろう。そうすりゃ、神様が天国に入れて下さるよな。この世にもあの世にもあいつらに希望が生まれるって思うよ。うれしくって泣けてきたよ。」

 林の親分の気持ちを良く知っている林のおかみもこの話に泣き出した。カタリナももらい泣きしている。シストと六左衛門は、林の親分がこれほど子分のことを思いやっているその愛に感動し目頭が熱くなっている。なんといい親分だろう。
さて翌日。六左衛門の教理説明の第3日目。いよいよ林一家の全員にシストの計画が伝えられた。若いならずものたちの顔が希望に輝きだした。あとをとって林の親分が大演説をした。

林の親分 
「親分のためなら、命すら惜しんじゃいけねー。このイエズスっていう親分には、なおさらだ。どこの世界に、子分のために子分の罪を背負って、はりつけになって下さる親分がいるってんだい。こんないい親分には、どこまでもおつかえして当然だ。しかも、この親分は、ご自分につかえた子分を天国に入れて下さるっていうんだぜ。親分からして、命を俺達のために捨て下さったんだ。こんな親分には俺達もよろこんで命を捨てようーじゃねーか。てめえら わかったか。」
     
林一家が全員立ち上がる。すごいときの声を上げる。
「えい、えい、おー。えい、えい、おー。」

 六左衛門もシストも、ぶったまげてそれを見ている。彼らは、どうみても、大喜びだし、ほんとにやる気だ。自分のむなしい人生が突然、価値ある人生にできる道が開かれたのだ。若いバイタリティーで、その道を突進しようとふるいたったほり子たちのときの声に、とうとう偉大なことがはじまった。と、シストも六左衛門も感じた。六左衛門がシストの耳と口をよせて話す。

六左衛門 
「シスト、実はローマ時代の迫害の時も、洗礼準備中の人と洗礼を受けて間もない人が一番良く働いたんだよ。君とカタリナは、洗礼を受けて間もない人だし、林一家は洗礼準備中の人だ。歴史は繰り返すね。」





2008年5月23日 UP
著者 ジャン・マリー神父・ソーンブッシュ・リトルヨハネ
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