33年
(C)箱舟の聖母社


シストの巨大な構想

 唐人屋敷に戻ってきた。ちょうちんを消し、カタリナは赤ちゃんルイスを寝かしつけに行く。シストと六左衛門はもう酔いはさめている。シストが真剣な表情になっている。

シスト  
「六左衛門。座ってくれ。」
     
六左衛門はシストに向き合ってあぐらをかく。


シスト  
「六左衛門。どう思ったかい。」

六左衛門 
「うん。ならずものぞろいの林一家が集団で改心するなんて、信じられない。奇跡だと思う。神の大勝利だ。君たちはすごいよ。」

シスト  
「六左衛門。そのことじゃないんだ。それに、ぼくたちは、決してすごくなんかないよ。ぼくたちは何もやってないもの。みんな神様がなさったみわざだ。」


六左衛門

「そのことじゃないっていうのなら・・・・。あの元気な若いごろつきどもが、遊女と寝るのをやめられるかなあって内心、心配なんだ。」

シスト 
「六左衛門、そんなことでもないんだ。それに、遊女と寝るのをやめられるか心配なら、独り者のほりこに、林の親分みたいに結婚して妻をみんなもて。そして、妻とだけ寝ろって言えばいいじゃないか。」

 六左衛門は、それを聞いてぶっと吹き出した。自分が、生涯独身をつらぬこうと思っていて、女性にいっさい性欲をだかないようにと戦っているので、ほりこたちが、そんな大変な内的な戦いができるかと思ったのだが、シストの答えはなんと自然な発想だろう。

六左衛門 
「わー、シスト。君は、本当にまっすぐに単純にものを考えるねえ。そうだよね。本当だ。聖パウロもそうすすめている。えーと、そうじゃないっていうなら、林の親分が書いてくれる手形のことかい。だったら、こんなに助かることはないよ。本当に、ぼくにとってうまい話しだよ。これは。」

シスト  
「六左衛門、そのことでもないんだ。六左衛門は、ぼくの名がシストだから、シスト?世のことを教えてくれたし、今、キリシタンに加えられている迫害のこともいろいろ話してくれてるよね。ぼくはね、カタコンブを日本の鉱山はつくれるんじゃないかって思っているんだよ。」

シストの顔はますます真剣になる。六左衛門はたちまちその言葉に反応し、身を乗り出す。そして大きな声をだす。

六左衛門 
「何だって。そんな可能性がここにはあるのかい。」

シスト
「そうだよ、林一家のほりこ達は、みんなここに逃げ込んできたんだよ。そして、ここにいれば安全だ。役人はここには追ってこれない。ということは、キリシタンたちも、、もし追われたなら、ここに逃げこめるってことじゃないかい。そうだろう。それから、今晩のできごとだ。六左衛門が名前を変えてつちおやに手形をかいてもらえば、国中どこにでもいけるっていうのなら、パードレだって修道士だって、他の同宿だって、同じことじゃないかい。それからね、日本では国中の鉱山が一つにつながっているんだよ。この間、一人のつちおやが死んだんだ。その人の、ほりこ達が、国中の鉱山に知らせに行って、北の果てからも南の果てからも、そのつちおやにかつて面倒を見てもらった人たちが、みんな集まってすごい大きなお葬式をあげたんだよ。それから、つい最近大きな事故が起きた鉱山から、残された家族への義援金をつのるためのほりこがそこのつちおやたちから送られてきたよ。もちろんここのみんなが募金に協力したよ。それに、どこそこで新しい鉱山が開かれたとか、どこそこの鉱山で新しい鉱脈が見つかったとか、どこそこの鉱山は今さかりだとか、もうおとろえたとか、詳しい情報がみんな伝えられてくるんだよ。それから鉱山から鉱山へと移るのも自由で、おとろえた鉱山からさかりの鉱山へと、さかんに移動していくんだよ。六左衛門。このしくみがキリシタンに利用できればどうなると思う。」

 シストは、熱っぽく語る。神の国のための熱心が燃え上がっている。六左衛門は、大きくうなずきながら聞いている。


シスト  
「六左衛門。このしくみをキリシタンが利用するには、各鉱山にキリシタンのつちおやがいればいいんだよ。一人でも。できれば日本中の全ての鉱山に一人づつでもキリシタンのつちおやがいれば、日本中を自由に動ける地下教会が完成する。」

 シストの巨大な構想を聞かされて六左衛門の頭はパンク寸前だ。鉱山の制度について全く知らないのだから、ついていけなくて当然だ。
シスト  
「じゃー。どうやって日本中の鉱山にキリシタンのつちおやがいるようにできるかだ。そこで、ぼくの計画だよ。いわみ銀山は日本一の鉱山でやってることも最先端だ。そこの最も中心的なつちおやの林の親分が、ほりこともどもキリシタンになるんだ。ほりこ達も技術と知識にかけては、超一流だ。だから、林の親分にほりこたちをつちおやに育てあげてもらうんだ。できるやつから、次々につちおやを襲名させて、他の鉱山に送りこんでもらう。キリシタンのつちおやはそこで、また、ほりこたちをキリシタンに改心させて、ほりこたちに技術と知識をたたきこんで、つちおやに育て上げる。こうすれば、ねずみ算式にキリシタンのつちおやが増えていく。どうだい、六左衛門。」

六左衛門 
「うん。すごい。林の親分からいろんなことを聞いてもっと詳しく、鉱山の制度を学ぶことにしよう。」


六左衛門は、これだけいうのがやっとだった。




2008年5月21日 UP
著者 ジャン・マリー神父・ソーンブッシュ・リトルヨハネ
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