33年
(C)箱舟の聖母社


本当の神様

 翌日のお葬式である。妻子がとりすがって泣いているが、その妻子よりもさらに大泣きしているのが、カタリナだ。死んだ堀子は本当に若い。

カタリナ 
「あーん。あーん。なんでこんなに若いのに死んじゃうの。あーん。あーん。奥さんと子どもはどうなっちゃうの。」。

 カタリナの胸は同情で張り裂けんばかりだ、泣けて泣けてしょうがない。とにかく豊かな同情心がカタリナの特徴だ。死んだ若い堀子の顔を見て、シストとカタリナはここに居る人たちの中で二人だけが負っている強烈な体験がフラッシュバックする。祖国を守るために命を散らした若者達の何千という顔。耳と鼻をそがれた顔だ。あどけないほど若い顔が多かった。あの若者たちの父や母の悲しみはどんなに深いだろうか。また、自分たちと同じくらいの若者達も。残された妻たちはどんなになげいているだろうか。子どもたちは、どんなにさびいしいことだろうか。
目の前で、あなた。お父ちゃん。と遺体にすがって泣く妻子の姿にシストとカタリナは同情で、気が狂わんばかりになってしまっている。人間が持つ愛には、いろいろな種類の愛がある。その中で一番神の持つ愛に近いのは同情の愛である。しかし、ただ同情を感じるだけにとどまるなら、それが何になるだろう。シストとカタリナは、実際的な人間、行動的な人間、思ったら言い、考えたら行動する人間だ。その自然的土台の上に、イエズスの教えが今や加わっているのだ。「これらの最も小さな者の一人にしたことは、私、イエズスにしたのである。」という教えだ。

シスト  
「カタリナ。ヨゼフ様に先立たれて悲しむマリア様とイエズスに対してしてあげていると思って何かしてあげようね。役人から渡された当面の生活費があるから、それを使おうよ。」

カタリナがシストの手を握り締める。

カタリナ 
「うん。シストありがとう。私にまかせといて。」

 翌日、野菜売りがやってくると、カタリナは野菜をどっさり買った。半分はあの母と子のためだ。それをかかえてさっそく母と子をなぐさめに出発する。まず、向かうのは林の親分の家だ。赤ちゃんルイスをおんぶって、両腕いっぱいに野菜をかかえてうれしそうに歩いていく。

カタリナ
「こんにちは。」

林の親分 
「おお、あがれー。おまえー。先生の奥さんだぞー。」

 林の親分がいた。おかみも奥から出てくる。

林のおかみ
「まあ。先生の奥さん。たくさん野菜買ったね。どうするの。」

カタリナ 
「昨日のお母さんと子どもの家にもっていくの。親分が面倒見てあげるって聞いたけど、私にも何かやらせて。」

林の親分 
「そりゃーうれしいが・・・・。先生とこの方が今のところ、ここの誰よりも貧乏だぜ。何も持ってねーじゃねーか。今からそろえなきゃなんねーものばかりだろうによ。いいのかよ。」

カタリナ
「シストと私はどうしてもこうしたいのよ。お願い。」

林の親分 
「ちょっと、そこに、野菜を置いて、まあ、上がれ、上がれよ。話しを聞きてえからよ。」

 カタリナは、言われるままに上にあがり、親分と向き合う。

林のおかみ
「お茶いれるからね。赤ちゃんを座布団の上におろしなよ。」

 おかみは、お茶の仕度にかかる。

林の親分 
「来たばっかりで、昨日はじめて会ったばかりの親子だろ。おまけに、自分たちは家財をこれっぽっちも持って無いし。乳飲み子抱えてこれからものすごく物入りだ。何でそこまでやるんだい。ふつう、そこまでやんねーよ。」

林の親分は、とってもまじめになって、問いただす。
カタリナは、小さな女の子のように無邪気に普通のことのように答える。

カタリナ
「私の神様がね、あなたが人にしてもらいたいと思うことを人にしてあげなさいって教えてくれているの。」

林の親分
「ほー。人にしてあげなさいって教えているわけか。自分が人にしてほしくないことを人にするな。とは、ちょっと違うねー。」

カタリナ
「そしてね。あなたが人にしてあげたことは、神様にしてあげたことだ、って教えてくれてるの。」

林の親分
「ほー。人間が神様に何かしてあげられるってのかい。」

カタリナ
「そうなの。それで、シストと私はね。あのかわいそうな人に何かしてあげたいの。」

林の親分
「なるほどねー。でも先生の奥さん。もしかして忘れてやしねーかい。あの親子は、日本人だ。あんたらとあんたたちの国をひでーめにあわしている国の人間だよ。いいのかい。」


 林の親分は、カタリナを試し、カタリナの神様を試すための質問をぶっつけてきた。しかし、カタリナは気づいていない。まったく変わらず、同じように無邪気に答える。

カタリナ
「私の神様はね。あなたの敵を愛しなさい。迫害する人々のために、祈り、祝福しなさいって教えてくれたのよ。」

もう林の親分は、カタリナに向かって何も言わない。突然、林の親分は、林のおかみに向かってしゃべりだす。

林の親分
「おまえ、先生と先生の奥さんの神様は、本当の神様なんだ。おれは、たった今、くら替えするぜ。お前も、くら替えしろい。」

 これには、カタリナもぶったまげた。林のおかみが目をまんまるくして、おったっている。

林の親分
「俺は、ちょっと堀子みんなのところにへ行ってくるからな。あいつらにもくら替えさせる。くら替えだー。くら替えだー。」

 林の親分は、おかみにこういい残して外に出て行く。カタリナは、あっけに取られている。林のおかみは、カタリナの前に、お茶を置いてぼっそっと言う。

林のおかみ
「鎚親はさー。かわいがってる若いのが、30にもならずに次から次へおっちんじまって、葬式ばかりだしてるだろう。本当に救ってくれる神様が欲しいんだよ。」




2008年5月15日 UP
著者 ジャン・マリー神父・ソーンブッシュ・リトルヨハネ
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