33年
(C)箱舟の聖母社


関門海峡を渡る

関門海峡の手前の宿屋である。明日は、船に乗る。夜である。赤ちゃんルイスが泣きはじめた。カタリナがおっぱいをやるために起き、子守り歌を歌いだす。もちろん、母からならった子守り歌である。カタリナの声は、日本人の声とは違い、少しハスキーな、少し低めの声だ。シストも目をさまし、カタリナの子守り歌に聞き入っている。満腹した赤ちゃんルイスが、また、寝る。

シスト
「カタリナ。祖国が、なつかしいね。」

カタリナ
「うん。」

シスト
「帰りたいね。」

カタリナ
「うん。私、ずっと左手に、私達が渡ってきた海があったでしょ。その向こうに高麗があると思うと、歩きながら、ずっと考えたことがあるの。」

シスト
「なにを。」

カタリナ
「モーゼの時のように、この海がわかれて、歩いて祖国に帰れたらなあって。」

シスト
「僕も、海の向こうの祖国のことばかり考えて歩いていたよ。この何日かずっとね。明日、船に乗ったら、その船が風に吹かれて高麗まで流されてくれないかなあなんて考えた。でも高麗には、また侵略軍がいて、たくさんの捕虜を捕まえて連行しているんだもの、まだ、祖国には帰れない。」

シストとカタリナは、侵略軍にふみにじられている祖国、苦しみにあえぐ祖国のことを考えている。そして、二人は泣く。しばらくしてカタリナが口を開く。

カタリナ
「シスト、この子は祖国に帰れるかしら。私達が帰れないとしても、この子には祖国を見て欲しいわ。」

シスト
「わからない。でもカタリナ。希望しようよ。夢をもとうよ。この子か、この子の子か、とにかく僕たちの血をつぐものが、いつか祖国を見ることを。ね。」

カタリナ
「うん。きっとかなうわよね。」





2008年5月12日 UP
著者 ジャン・マリー神父・ソーンブッシュ・リトルヨハネ
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